今年3月に行われた全国高校選抜では、ライバル・青森山田、井原をすさまじいまでのタンブリングで突き放しての優勝。「今年の神埼は強い!」と印象づけた。4月には、ジュニア時代からその身体能力とリーダーシップで神埼ジュニアの司令塔を務めてきた浅田匠選手も加入し、今年のインターハイ優勝は確実かと思われた。5月に行われたインターハイ県予選の段階で、神埼の演技の完成度は高かった。ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」にのせた物哀しく、重厚な演技はまさに超高校級でこれを凌ぐチームが出てくることは想像できないとも思われた。
このチームの強みはなんと言ってもタンブリングの強さだ。高校生でも全国レベルのチームともなればどこもタンブリングは強いのだが、神埼清明が出てくると途端に、それまで「凄い、強い」と思っていたものが普通に見えてしまう。そのくらいの差がある。一方で、表現力といった面では、井原や青森山田、あるいは名取のような評価はされにくかったのが今までの神埼清明だった。しかし、今の神埼はタンブリングだけでなく体操の美しさや深さ、見せ方のうまさなどにも長けている。「強い」だけではなく、「美しさ」も「表現」も見せられるチームなのだ。この「月光」による演技には、そのことを証明してやる! という神埼の決意が見えた。
神埼のキャプテン・石橋知也選手は、今年の演技について「「月光」は以前の強かった先輩方が使っていた曲なので、自分たちが使っていいのかな、と初めて聞いたときは緊張しました」と言う。チームを何回も優勝に導いている中山智浩監督も、「今年くらいメンバーの能力が高いときじゃないとこの曲は使えん」と言った。果たしてインターハイでの神埼の演技は、当たり前のように素晴らしかった。が、優勝した井原とはわずか0.175差で2位に終わった。試技順が2番と早かったことも神埼にとってはやや不運だったようにも思うが、優勝はできなかった。どんな悔しい思いをしているだろうと思う。今年の神埼も間違いなく強かったし、例年以上に美しかったのだから。
井原と神埼、何回戦ったとしても僅差の勝負になりそうな両雄がこのオンライン選手権にはそろって出場する。神埼清明はもちろん雪辱を目指す。高校生最高峰の爆発的なタンブリングをぜひ堪能してほしい。