スポーツ 男子新体操全国オンライン選手権 2021,10,13

今年も大盛況! 男子新体操オンライン選手権を振り返る①

男子新体操全国オンライン選手権2021

男子新体操オンライン選手権、1番試技は「鹿実RG」だった。
鹿児島実業高校新体操部の3年生6人で組んだチーム。
その中でひときわ長身だったのが中村綾馬だ。

彼の姿を見たときに、今年の3月、高校選抜直前の鹿児島実業の練習風景を思い出した。
選抜本番まであと1週間もないというその日、レギュラーだった福田愛騎が授業中に怪我をした。本番に出ることは不可能になった。
鹿児島実業は、高校選抜で10数年ぶりのガチ演技「鬼滅の刃」を披露する予定だった。それもかなり完成度が上がっており、「鹿実なのにコミカルじゃないの?」と見る人の期待を裏切ったとしても、この演技ならいつもとは違うインパクトを与えられるだろうと思えるところまで仕上がっていたのだ。

しかし、福田の怪我で予定はすべて狂った。補欠を入れて「鬼滅」を通してみたが、「コミカルを捨ててまで鹿実が見せたかった演技」には程遠く、その場で樋口監督は「選抜はドラゴンボールでいく」と決断した。選手たちの中には、「鬼滅で勝負したい」という思いもあったかもしれない。が、ガチ演技を見せるからには、譲れないレベルがあったのだと思う。
このとき、空いてしまった福田のポジションを争った2人の補欠の片方が中村だった。福田の役回りだった「タマ(組みで跳ぶ役目)」をやったことがなかった中村は不利かと思われていたが、そこからの1週間の猛チャージで高校選抜では見事メンバー入りし、本番の演技でも見事に穴を埋めていた。

しかし、その後は、怪我や福田の復帰もあり、インターハイではメンバー入りを逃した。オンライン選手権でのインタビューでも、彼はそのことに触れ少し言葉を詰まらせていた。それだけインターハイに懸ける思いは強かったのだ。
しかし、このオンライン選手権で、中村と同期の5人で組んだこのチームは、「鬼滅の刃」でのガチ演技を披露した。半年前は、披露できるクオリティーにないと、高校選抜でお蔵入りしたあの幻の演技を、オンラインで全国に披露したのだ。それは、インターハイメンバーには入れなったこの3年生たちが、この演技を披露できるだけのレベルまで上がってきた証しだった。

「鬼滅の刃」の旋律にのせて、彼らはこの2年半、磨いてきた自分たちの力を見せた。力強さも美しさもある演技だった。コミカルではなくても、しっかりと「魅せる力」をもった演技を彼らはやってのけた。「鹿児島実業は、こんな演技もできますよ。それだけちゃんと練習しているんですよ」ということを示したのだ。

試技順2番で登場したのは、宮城県名取高校。
名取高校は、昨年のインターハイで演じた名作「チックタック約束の時計台」で、今年の5月「全日本男子新体操団体選手権」で初優勝を成し遂げたチームだ。3月の高校選抜のときは登録選手が4人しかおらず、苦しい台所事情が垣間見られたが、そのわずか2か月後に全国制覇。ジュニア層からの育成が進んでいる宮城県名取ならではの快進撃だった。

しかし、今年の新作披露となったインターハイでは倒立で動いたり、細かい部分でのバラつきなどもあり、やや完成度を上げきれていなかった。直前の怪我によるメンバー変更が響いた面もあったようだが11位に終わり悔し思いが残っていたに違いない。

オンライン選手権での彼らの演技は、インターハイからの1か月を彼らが真摯に過ごしてきたことが十分に伝わってくるクオリティーの高い演技をオンライン選手権では見せ、インターハイでは6.350だった実施点はじつに7.550まで上がった。
今年の名取の作品は、今春青森大学を卒業した佐藤三兄弟(名取高校OB)の演技のエッセンスを取り入れ、「つなぐ」をテーマにしたものとなっていた。個々の選手のスキルアップと団体演技としての実施力の向上によって、男子新体操に名前を残す名選手だった佐藤三兄弟の演技の残像がオンライン選手権での演技では明確に浮かび上がった。

3番手ではインターハイを沸かせた「名探偵コナン」をひっさげ、鹿児島実業高校が登場した。登場から「一人足りない?」と思わせておいて、スケートボードにのってキャプテンが遅れて登場するなど、演出にもこだわり、「名探偵コナン」「うっせえわ」「粉雪」「半沢直樹」とたたみかけるように曲が変わり、その曲を十二分に生かした演技を披露した。オンライン選手権なので、その場で演技者に届くことはないはずの大爆笑がオンラインでの視聴者ごとに巻き起こっていたと思う。

インターハイでもオンライン選手権でも、今年の鹿児島実業のこの作品はインパクトのある衣装やコミカルな振付が話題になったが、無視できないのは彼らの技術の高さだ。たしかに新体操的には無駄の多い構成だとは思う。ときには点数を下げてしまう原因になるかもしれない動きも入っていた。今年のメンバーがガチ演技の「鬼滅の刃」を演じたならばとれるであろう得点ほどには、この作品は構成点が高くないことは理解できる。ある程度そこは犠牲にして「笑い」を優先しているからだ。

ただし、そんなコミカル演技ではあっても、彼らのタンブリングの強さ、多彩さは評価に値する。さらには徒手に関しても非常にベーシックで基本を押さえ、つま先や膝などもよく意識できていたと思う。「コミカル演技」だからと言って「新体操が下手」では、笑いどころではないところで笑われてしまう。そうはならないように研鑽を重ねてきた演技だった。それでも、得点は伸びなかった。本来はセカンドチームだった鹿実RGにも及ばず、構成2.500、実施3.950。今年も視聴者賞は受賞したが、力のあるチームだけにこの得点には悔しさも残ったのではないかと思う。

男子新体操の認知度アップには多大な貢献をしてきた鹿児島実業の男子新体操。多くの人に愛されてきたコミカル演技ではあるが、競技団体の審判部としては「いい加減にしろ!」という意思表示をし続けるしかないのだろう。しっかりとした技術もあるチームに育ってきているだけに、鹿児島実業のエンターテインメント性と競技力をどう両立させるか、そろそろ岐路に立っているのかもしれない。

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