スポーツ 男子新体操全国オンライン選手権 2022,12,20

2022男子新体操オンライン競技会を振り返って_前半

主会場では、男子新体操界の双璧・青森大学と国士舘大学をはじめ、今年度の高校団体トップ3の青森山田高校、神埼清明高校、鹿児島実業高校、個人トップ2の本田歩夢、貝瀬壮が一堂に会し、オープニングの集団演技を行った。大会テーマソングになっている「馬鹿ばっか」のアップテンポな曲にのせてこれだけの人数が動くと、会場のボルテージは一気に上がる。男子新体操が大好きなまさに「馬鹿ばっか」がここに集い、今年もオンライン競技会の幕が上がったのだった。

大会のトップバッターを担ったのは、オンライン競技会ではすっかりおなじみの鹿児島実業高校。昨年は「名探偵コナン」、一昨年は「ドラゴンボール」のコミカル演技でおおいに沸かせ視聴者賞をかっさらっているチームだ。が、今年は少し空気が違っていた。今年の彼らは、今年度インターハイで団体3位入賞チームとして堂々と、実力でこの会場に招かれたのだった。演じるのは、インターハイと同じ演目「炎」。メンバーもインターハイのときと同じ、鹿児島実業史上最強と呼ばれたメンバーたちだ。

映画『鬼滅の刃』のテーマ「炎」のせつなくも美しい旋律にのせた、彼らの動きはどこまでもクリーンだった。そして、揃っていた。8月のインターハイ、10月の全日本選手権で見せた演技もほころびのない素晴らしいものだったが、さらにそこから2か月近く経った今も、彼らの演技はますます冴えわたっていた。後半、曲調がアップテンポになると、美しさに加え、迫力もスピード感も増し、「強いチーム」ならではの、圧巻のタンブリングには会場からも「おおっ」という声が上がっていた。いつもはコミカルな彼らが「まじめな演技をした」から驚いているのではない。真面目に力を発揮して見せた彼らがあまりにも強いから。人々は息を飲んだのだ。

続く神埼清明高校は、インターハイ準優勝チームだが、すでに3年生が引退し、1,2年生だけの新しいメンバーで構成されていた。キャプテンの浅田匠は、2年前のオンライン選手権ジュニアの部で優勝したときの神埼ジュニアのキャプテンも務めていた技術だけでなく卓越したリーダーシップも兼ね備えた選手。すでに名門・神埼清明高校の中枢を担う選手に成長している。浅田率いる新チームは、やや小柄ではあるが、神埼伝統のタンブリングのスピード、キレは健在で、とても「新チーム」とは思えない迫力のある演技を見せた。来年はもちろん、優勝を!と狙っているだろうし、さらに再来年には、国民スポーツ大会(旧・国体)に男子新体操が正式種目に復活する。その記念すべき2024年大会は佐賀県で開催される。現在の1年生は、そのときに3年生になっている。ここからの半年、1年で、どこまで伸びるのか末恐ろしさすら感じさせる演技だった。

インターハイ2位の神埼清明、3位の鹿児島実業がそろって素晴らしい演技を披露した後に、満を持して登場してきたのがインターハイ優勝校・青森山田高校。こちらは、3年生も入ったインターハイメンバーのままだった。インターハイでの演技は「奇跡の1本」と柴田監督にも言われていたが、あれから4か月たっての彼らの演技は、その奇跡が「当然」になっているように感じられた。演技冒頭の細かい動き、じつに青森山田らしい趣のある動きは、夏の時点でも「おっ」と思わせるものがあったが、さらに深みを増し、このチームが「見せたい」と思っていたものにより近づいているのだろうと感じられた。夏には少し華奢な選手が多い印象だったが、一人ひとりの体格もぐっとがっちりして、たくましさが増し、その分、タンブリングや体操に迫力が出てきていた。このチームもまた来年に向けて、より強くなっていくに違いない、と感じさせる演技だった。

その後、いくつかのオンライン演技などを挟み、鹿児島実業高校が再び登場。しかも今回は、今年なかなか見る機会のなかった「コミカル演技」だった。2020年のオンライン選手権で初披露された「ドラゴンボール(鹿児島実業名作選)」を、今年のインターハイ優勝メンバーで演じるという「本気のおふざけ」かつ「能力の無駄遣い」だが、これこそが鹿実の真骨頂だとも言える。コミカルな動き満載の演技でも、ひとつひとつの技は正確なうえに、見事な同調。コミカル演技だからこそ、人を笑わせるためだからこそ、手抜きなし!それが鹿児島実業。だからこそ、彼らの演技はこんなにも愛され、求められるのだ。この演技には、さらに、鹿児島実業OBを含む国士舘大学の選手たちも飛び入り参加し、鹿実ファンなら思わずニヤニヤしてしまう過去の演技のコスプレで爆笑ものの演技を披露してくれた。その巧みなことと言ったら。それは国士舘の選手たちにそれだけの能力があるということでもあるが、同時に、国士舘の選手たちもそれだけ鹿実の演技が大好きで、いざ演じるとなるとさぞかし張り切ったんだろうと感じる弾けっぷりだった。

ここでも完璧なエンターテイナーぶりを見せつけた鹿児島実業高校。今年はインターハイ3位で全日本選手権にも出場。そこでも目標としていた予選8位以内で決勝進出を果たし、ほとんどの試技でミスらしいミスはほぼなかった。その本番での完成度の高さは、彼らのプロ意識の表れとも言える。来年以降は、果たしてどんな演技を見せてくれるのか。コミカルでも真面目でも、どちらにしても楽しみなこと間違いなしだ。

さらに今大会は、今まで注目度が低かった個人演技でも多くの名演技を見ることができたが、高校生の2人の演技はオンラインで演技披露をしてくれた大学生たちにも迫らんする勢いを感じさせるものだった。今年からルール改正で加点要素が増えたため、「連続投げ」など難しい操作を入れる選手が増えてきているが、高校生でもそれは同様で、今年度のインターハイ覇者・本田歩夢選手(盛岡市立高校)とユースチャンピオンシップ覇者・貝瀬壮選手(光明学園相模原高校)は、いずれも非常に高難度な、それでいて完成度も高く、すでにそれぞれの選手の個性、世界観というようなものも感じられる演技を披露した。1年前までは、高校生の中でもそこまで突出した選手ではなかった2人だが、高校3年生になった今年の伸びは凄まじいものがあった。そして、春~夏の大会でよい結果に恵まれたことにあぐらをかくことなく、この先の自分におおいに期待して研鑽を重ねているのだろうということが、今大会の演技からは感じとれた。高校卒業後も新体操を続ける意思はあるとしても、12月ともなると普通なら少しは心も体も緩む時期だと思う。その時期にこれだけの演技ができる。彼らのその志の高さ、ストイックさには盛大な拍手をおくりたい。

最後に、ここまでに登場した高校生たちにとっても憧れの存在であろう大学生たちが登場。まずは、今年の、全日本インカレ、全日本選手権とも団体準優勝。王者・青森大学を猛然と追い上げている国士舘大学による長縄の集団演技だ。これは演技会などを観に行ったことのある人にとってはおなじみの演目ではあるが、国士舘の長縄演技は、毎年のように構成や曲を変え、そのときのメンバーの個性も生かしながら、何回見ても面白い、見飽きないものを作り続けている。試合での団体演技では、息をするのも忘れるくらいの迫力や美しさを見せる選手たちだが、長縄ではまったく違う表情を見せる。鍛えに鍛えた身体能力と、同調性をここぞとばかりにエンターテインメントに全振りするのが、長縄演技なのだ。男子新体操では、ジュニアの発表会などでも長縄演技よく行われるが、国士舘ともなるとその難易度が凄まじい。これだけ難しいことをやっているのに、表情はあくまで明るく茶目っ気たっぷりなことにも驚かされる。おそらく、男子新体操に興味があるというところまではまだいかない、という人でも、この長縄の演技にはハートを射抜かれたのではないだろうか。

そして、大トリとして登場したのが、今年も男子新体操の頂に君臨する青森大学団体だ。その演技にはいつも通り、一部の隙もなく、「これが王者青大か」と見た人すべてを納得させるものだったと思う。

が、じつは、この演技をこの時期にこのレベルで披露できるということ自体がこのチームの非凡さを物語っている。今年度も、全日本インカレ、全日本選手権の二冠に輝いた青大だが、じつは今大会で演技をしたメンバーは、そのときとは半分が変わっている。4年生が抜けた新しいメンバーだったのだ。今年の青大団体は4年生が強く、1年時からレギュラーだった松本健太選手をはじめ、組み技では最高の跳び役だった田口将選手、タンブリングの強さと力強い体操、安定感抜群だった野口勇人選手らががっちりとチームを支えていた。その彼らが抜ける来年こそは、国士舘をはじめとしたライバルたちにとっては下剋上のチャンス到来!とも思っていたのだが、この新メンバーでの演技も、間違いなく青大クオリティーだった。正直に言えば、そりゃあ少しは落ちていた部分はある。それは無理もない。そう簡単に追いつけるような4年生たちではなかったのだから。それでも、彼らの本当の勝負が始まるまでにまだ半年ある。半年あれば十分に、先輩たちを凌駕する演技にたどりつくこともできるんじゃないか、今回の青森大学の団体演技にはそんな可能性が感じられた。

エンディングでは主会場に集まったすべての選手たちが次々に自分たちの見せ場を披露しながらひとつになって、賑やかに和やかにこの競技会を締めくくった。男子新体操の魅力を存分に伝えることができた2時間半。オンライン出場を含めたすべての出場選手たちの「男子新体操を知ってほしい! 見てほしい!」という熱に溢れた大会だった。

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