主会場である国士舘大学での演技に挿し込まれる全国各地からのオンライン出演による演技の数々は、まさにオンライン競技会ならではの豪華さだった。
◎尾上達哉 & 大村光星
最初に登場したのは、花園大学(京都)から個人選手の2人。2022年度は全日本インカレで優勝争いを演じた同朋の二人による演技は、技術の高さはもちろんのこと曲調や情感がしっかりと伝わってくる芸術性の高さが圧巻だった。単に点数を稼ぐための技を積み重ねるのではなく、曲の旋律やアクセントを生かして動きや技が入り、緩急がある。男子新体操という「表現するスポーツ」の肝となる部分を感じさせてくれる演技を花園大学の二人は見せてくれた。
◎岡山県立井原高校
夏のインターハイでは披露できなかった6人での演技を公開。男子新体操の中では最高級の柔軟性をもったチームだけに、他のチームでは見られないような造形美を見せることができ、まさに「井原ワールド」とでもいうべき世界を描き出した。男女ともに新体操には柔軟性は欠かせないが、ただ「柔らかければいい」のかといえばそうではない。いき過ぎた柔軟は、「凄い!」とは思われても美しさからはかけ離れてしまう場合もある。無理が過ぎれば美しさを損ねる場合もある。井原高校が男子新体操の常識を超える柔軟に取り組み始めたは、2010年だった。
この年のインターハイで井原高校は初めて脚を後ろに90度よりはるかに高く上げるいわゆる「パンシェ」を見せて度肝を抜いたが、その後、次々と男子の限界を突破する柔軟性を見せてきた。その過程ではやや無理が感じられた年や、特別柔らかい選手頼みな年もあったように思うが、ここにきて6人全員の完成度も高く、洗練された柔軟性の見せ方になってきた。気が早いが「さて来年の演技は?」と期待が膨らんだ人が多かったのではないだろうか。
◎宮城県名取高校
3年生が引退して6人揃わないため、OBが特別に参加したという名取高校の演技だったが、その助っ人OB(髪の色が違うのがそうだろう)の健闘が光った。バク転などのアクロバットはもしかしたら現役時代よりは劣っていたのかもしれないが、名取高校の名取高校たるゆえんの独特な動きは、やはりしっかりと身についているものであり、現役選手に混じってもなんら違和感はなかった。う~ん、やっぱり名取の演技はかっこいい! そんな声が漏れてしまう演技だった。
◎Bakuten新体操クラブ
話題性一番! はこのチームではなかったろうか。アニメの影響もあり、近年は男子新体操をやる女子は増えつつある。ジュニアやキッズの大会では男女混成のチームや女子のみで構成されたチームの演技を見たこともある。が、今回のBakuten新体操クラブのMIX団体はその「ガチさ」が半端なかったのだ。男子メンバーのほとんどが名門・青森大学の元団体選手。そこに全日本出場経験もある元女子新体操選手が加わるのだから。
演技内容も、審判に向けてではなく観客に向けてアピールするように構成されており、その凄さは男子新体操を見たことがない人にも伝わりやすかったのではないかと思う。演技中盤に組み込まれている「ブランコ」という組み技は、青森大学の十八番だが、この作品の中ではそれを2つ並べて同時にやるという競技では見られないスペクタクルなものになっている。おそらく競技でやればルールに抵触するようにも思うが、これを見れば誰もが「凄い!」と目を見張るだろう。唯一の女子である神谷梨帆さんは、女子用とは違うスプリングの入った男子用マットの上で勝手が違ったはずだが、バランスなど止まるべきところはきっちり止まる実力者ぶりを見せつけ、パワフルでダイナミックな男子新体操団体に艶やかさというエッセンスを加えていた。
◎坂出工業高校監督・川東拓斗
2019年全日本チャンピオン・川東拓斗は、当時でさえ他の選手たちとはこだわりどころが違う選手だった。タンブリングや手具操作も十分高いレベルにはあったが、彼がこだわり抜いていたのはとにかく「徒手」。誰よりも深く、大きく、独特の緩急をもった彼の徒手はたしかに「男子新体操の理想形」でもあり、そこが評価されてのチャンピオンだったとも言える。男子新体操は2022年にルールが一部改正され、個人競技では手具操作の巧緻性がかなり評価につながるようになった。それにより高校生などの技術の向上ぶりには凄まじいものがあり、スリリングでテクニカルな演技が増えた。
それはそれでスポーツとしては正しい進化だなと感じる一方で、川東拓斗のようなタイプの選手はもう今後出てこないのだろうな、と感じたりもしていた。現在は母校で監督を務めている川東選手、現役時代とまったく同じというわけにはいかなかったと思うが、彼が見せたかったもの、伝えたかったことは十分に伝わる演技だった。
◎井藤亘プロデュース「a piece」
男子新体操好きなら期待せずにはいられないメンバーが集ったこの作品に対する期待は高かったが、いざ出来上がった作品は、その期待値を大きく超えるものだった。年齢も新体操のキャリアも、今回は性別もバラバラな14人だったが、3つの曲を繋いで構成した5分間の作品で見事に14人が融合していた。
第1パートはダンス的な動きが多く、現在は舞台で活躍しているメンバーが存在感を発揮し、第2パートは手具も使って新体操らしさを前面に出し、藤岡里沙乃、清水琢巳、中村大雅、小川恭平ら個人選手としての実績ある選手たちがその実力を見せる。第3パートはダンスとアクロバットを巧みに組み合わせ、希望に満ちた曲調と相まってとても心地よく「未来」に夢を見せてくれるエンディングになっていたように思う。
14人がそれぞれに撮影した動画を編集したものなので、1つ1つのカットはすべてソロなのだが、見終わったときには「群舞」を見たような印象が残った。おそらく、すべてのカットが屋外で撮影されていたため、背景には海があったり、林があったり、スカイツリーがあったりと様々であっても「空が繋がっている」から。だからこそ演出できた一体感ではなかったか。演じたメンバーたちも素晴らしかったが、その企画力、構成力、編集力にはおそれいった。
◎ソルクス体操クラブ
どうしても最年少の5歳児に注目が集まりがちなソルクス新体操クラブだが、男子新体操クラスは設立してまだ3年と歴史は浅いながらもメキメキと力をつけてきている。トップチームは2022年の全日本ジュニアにも出場していただけあって、今回出場した団体もきちんと基本的なことをおさえた演技をやり通した。全体的に美しい線が出せる選手たちが揃っている印象があり、5歳児が入っていてもしっかり演技を通しきることができるのは、周りの選手たちの力によるところも大きいと思う。ソルクス体操クラブがある兵庫県は、現在、女子の新体操では最激戦区であり、新体操が振興する土壌はある。この先がとてつもなく楽しみなチームだ。
◎神埼ジュニア新体操クラブ
2024年にはいよいよ国民スポーツ大会(旧国体)に男子新体操が正式種目として復活する。その復活第1回となる2024年の国スポ開催地にあたる佐賀県は、当然「国スポでのてっぺん」を目指しており、現在の中学2年生以上には出場の可能性がある。つまり、この神埼ジュニア新体操クラブの団体は、近未来の「国スポチーム」に限りなく近いと言うことができる。高校生に比べると、動きの深みや迫力などは当然少し物足りないが、神埼の真髄ともいえるタンブリングはさすがだった。本番でもっともミスが出やすく、また減点も大きいタンブリングでのこの安定感は彼らの大きな武器になる。来年の国スポまでの成長におおいに期待したい。
◎東本侑也 & 堀孝輔
社会人としては1991~1992年の内海祐吾(群馬県体操協会)以来30年ぶりとなる連覇を達成した2022年全日本チャンピオン・堀孝輔の勤務先である高田高校(三重県)からのオンライン中継には、全日本選手権で準優勝となった東本侑也(同志社大学2年)も登場した。東本にとっては堀は大学の先輩であり、有望選手でおそらく他の強豪大学からも声がかかっていただろう東本が同志社への進学を決意した理由になったのが堀の存在だった。 同志社の男子新体操は、堀孝輔の在学中にかなり飛躍した。部員も増え、ジャパン出場に迫る選手も出てきた。マットなどの設備には恵まれない環境でもやれることを堀が示し続けてきたことで、同志社は男子新体操選手たちのひとつの選択肢となった。そして、東本は堀が学生時代には成し遂げられなかった「全日本学生チャンピオン」「大学生での全日本選手権制覇」にあと2年挑戦できる。しかもかなり達成の可能性が高いところまできている選手だ。
この日の演技は、まず東本がそのポテンシャルの高さを存分に見せつけるクラブの演技を見せた。曲が昭和歌謡なのはご愛敬だが、この先、彼の能力をより引き出せる曲や表現に出会ったとき、さらに大化けを見せてくれそうだ。そんな頼もしい後輩の演技のあとに見せた堀孝輔の演技には、盤石のさらに上をいく凄みがあった。いつも競技会で見ていた堀の演技とはまるで違って見えた。もちろん競技会での演技も凄い、なにをやってもミスしそうにない安定感と技術は他を圧倒しているからこそ2年連続のチャンピオンにもなっているのだ。だが、この日の堀の演技では、「じつはもっとできる!」ということを見せてくれた気がした。百戦錬磨の堀とはいえ、競技会では緊張しているのだ、重圧も感じているのだ、という当たり前のことを、ノンプレッシャーの演技を見たことで知ることができた。堀孝輔が、競技会でものこのフルパワーを出せるようになったならば、彼の連覇を止めるのはかなり難しそうだ。
◎田窪莉久 & 遠藤那央斗
現在の日本トップ2である堀と東本の素晴らしい演技を見てしまうと、「来年もこの2人なのか」と思いそうになるが、そうはさせない! と牙を磨いている選手たちが青森大学からのオンライン中継で演技を披露した。2022年全日本選手権個人総合6位の田窪莉久と7位の遠藤那央斗だ。田窪は大学に入ってから急激に伸びた選手で2022年全日本選手権では種目別クラブで初の金メダルも獲得。大学生になってから徐々についてきた自信がついに本物になった、今伸び盛りの選手だ。今回の演技でも、彼の持ち味であるタンブリングの強さをいかんなく見せ、ただの跳躍でもけた違いの高さを出すことができる彼ならではの堂々たる演技を見せた。
遠藤那央斗も、彼らしいキレのある、表現力に長けた演技で、彼もまた堀と東本の独走を追撃する位置にいる選手であることを証明して見せた。遠藤の演技は、その細部へのこだわり、見せ方のうまさなどはトップレベルであることは間違いないが、競技会ではなかなか4種目完璧に通らなかったり、点数が伸びなかったりする。魅力ある選手であり、演技なのだが、高得点を叩きだすだけの説得力が足りないのかもしれない。が、遠藤はこのオンライン競技会以外にもシーズンオフの演技会に精力的に出演し、どこでもパーフェクトな演技を見せ会場を沸かせている。競技会で最大限の力を出すための経験も積み重ねてきた遠藤の「大学ラストイヤー」となる2023年は、大飛躍の年になるのではないか。そう予感させる演技だった。