詳しすぎるぞ!出場チーム紹介!!熊本県立芦北高校(熊本県)
熊本県はかつて「男子新体操王国」だった。なにしろ1996〜1999年にかけて水俣高校がインターハイ4連覇を果たしているのだ。連覇すら困難と言われているインターハイでの4連覇はまさに偉業だった。このときの水俣高校を率いていたのが名将・森勝弘だが、この森は、1976年には芦北農林高校をインターハイ優勝に導いている。
この芦北農林高校を前身とする芦北高校だが、男子新体操部は一度、廃部になっている。それが復活したのは2013年のことだった。現在も監督を務める牛迫大樹が、芦北高校に赴任し、まず同好会として男子新体操を復活させた。そして、2015年にはじつに34年ぶりに水俣高校を破り、県大会で優勝。九州ブロック大会でも4位に入り、久しぶりのインターハイ出場を決めたのだ。
※参考記事 (2015近畿総体に向けて)
2015年の芦北高校団体メンバーは、6人中5人が高校から新体操を始めた選手たちだった。決して強いチームではなかったが、高校から新体操を始めて、牛迫監督の指導のもとなんとかインターハイ出場にこぎつけた、そこが芦北高校男子新体操部の再出発だったのだ。そして、そこから芦北高校の団体でのインターハイ出場は続いている。
この芦北高校の復活劇を支えてきたのが、熊本県内のジュニア育成の盛り上がりだ。まず、芦北にJKA芦北ジュニア新体操クラブが発足し、2014年には初めて全日本ジュニアに団体で出場している。さらに、芦北高校の台頭でインターハイ出場が途切れた水俣高校のお膝元・水俣の水俣ジュニアも活動を本格化。年々、クラブ員も増え、力もつけてきた。2019年には、全日本ジュニアで水俣ジュニアが3位、芦北ジュニアが6位と熊本旋風を巻き起こした。
今年の芦北高校の団体メンバーは6人全員がジュニアからの新体操経験者だ。芦北ジュニアから3人、水俣ジュニアが2人、1人は鹿児島のシュテル新体操クラブ出身。2015年に久しぶりのインターハイ出場を果たしたときからすれば、各段のレベルアップを果たしている。芦北ジュニア、水俣ジュニアともに指導陣の多くが、水俣高校黄金期の選手たちだ。クラブは違っても彼らに共通しているのは、「(男子新体操の)強い熊本を復活させたい!」という思いであり、自らが受けてきた指導に基づく「美しい体操」を、子ども達に伝えようとしている。
「強い熊本」復活への土台作りは着々と進んできている。2019年の九州ブロック大会では、神埼清明、小林秀峰という双璧の一角を崩し、久々の準優勝。小林秀峰にミスがあったとはいえ、1つのミスで順位が変わるところまでは芦北の力がついていることを証明してみせた。
今年は、さらなる飛躍も目指せる、そんなメンバーが揃った芦北高校には、いよいよ上位争いにも加わっていける力が備わりつつあった。選手たちにも期するものはあったはずだ。
しかし、新型コロナの感染拡大による休校、部活中止、それがやっと明けたところで豪雨災害に見舞われ、大切なフロアマットは泥にまみれた。豪雨後、一番近い大会だったオンライン選手権への出場は無理かと案じられたが、こんな状況だからこそ出たい、という選手たちの気持ちは揺るがなかった。
キャプテンの岩永京大(2年)の家は、老舗の醤油店だ。その店舗、工場、自宅すべてが被災した。学校が休校になっていた期間は、岩永も、家族とともに泥出しなどの作業に明け暮れたという。とても新体操どころではなかった? と岩永にきくと、
「いえ、じつは豪雨の最中も、マットは大丈夫か、試合に向けての練習はできるのか? 大会(9月の岐阜フェスタに出場予定だった)に間に合うか? と考えていました。」
という答えが返ってきた。家業さえ存続の危機に陥るような災害のさなか、「新体操できるのか?」などと口には出せなかったかもしれない。が、それがスポーツに懸けている高校生の素直な気持ちだろうと思う。
6人の団体メンバー中3人は家も被災している。普通の暮らしはまだ戻ってきていないはずだ。そんな中でも、新体操の練習をし、オンライン選手権に出場する。それは贅沢でも、不謹慎でもない。ジュニア時代からずっと打ち込んできた新体操なのだから。インターハイすらなくなったこの夏、彼らは、このオンライン選手権に懸けている。
そして、この困難を乗り越えたならばきっと、「熊本の男子新体操」はもっと強くなる。
「新体操沼はまり歴20年ライターが見る 男子新体操オンライン選手権2020」